これからの地域の魅力を、みんなで紡ぐ。【JR高崎線沿線ブランディング】

JR東日本高崎支社が仕掛ける高崎線沿線ブランディングの一環として、JR社員や深谷商店街の人々を交えたワークショップが開催されました。

埼玉県北部に位置する深谷市の人口は、14万人ほど。商店街が立ち並ぶ中心部には深谷駅があり、JR高崎線によって群馬県と埼玉県を接続しています。

インフラとしてのJRが抱える危機感、そして深谷商店街の日常

日本は、人類が未だ経験したことのない速度での人口減少・少子高齢化に直面しています。その中で、多くの自治体や企業が、生き残りのための創意工夫に迫られています。

鉄道会社もその例外ではありません。乗客数の減少などの影響によって、「将来にわたってそのサービスを持続していくことが既に困難になっている」と宣言している地域もあります。特に、深谷のように有名な観光地ではない地域において、それは決して他人事ではありません。

鉄道や駅は、多くの市民が利用する生活のハブとなるインフラであり、来訪者にとっての玄関口であることから、地域の暮らしの質と直結しています。

そんな今こそ、ローカルの人々が一丸となって、自分たちの未来を考えていかねばならない。そんな危機感から今回のワークショップが実現しました。

深谷駅の北側には商店街が広がっており、酒蔵や商店、映画館などが点在しています。その地域活性活動は、商店街の連合会や、その女性グループ「若女将(おかみ)の会」の皆さんによって活発に行われています。日常的に「この商店街を元気にしたい」という高いモチベーションがあるまちです。

現在は、20年ぶりに刷新されることが発表された新紙幣の肖像に深谷の生まれである渋沢栄一氏が選ばれたこともあり、商店街のいたるところで渋沢氏の顔が散見されます。

そこで、今回は、商店街の関係者とJR社員などで集まり、現在の深谷市がおかれている状況を皆で把握するとともに、渋沢氏の考え方から「私たちの暮らしに役立つエッセンス」を探り、それを活用しながら皆にとって価値ある地域の未来を描くワークショップを実施しました。

渋沢栄一のフィロソフィーから「私たちの暮らしの価値を高める要素」を抽出する

渋沢氏のストーリーを紹介する、「まちごと屋」取締役・本木さん

渋沢氏は日本の近代資本主義の父として名が知られている人物です。彼が提唱した「道徳経済合一」、これは道徳と経済はともに重要であることを表す言葉ですが、「道徳と経済のバランスを保て」という意味ではありません。道徳…つまりエシカルであることが経済の根底にあることを示しています。

企業は利潤を追求することが求められるが、それをトップの目的には置かず、「自分がなすべきことかどうか」を最大に優先することが経済につながる。しかし放置して一致するものではないので、一致させることに努めよという考え方です。

ストーリーをじっくりと聞き、呼び起こされた自分自身のエピソードをシェア。そこから自分たちの暮らしの価値を高める要素を抽出したら、「ビンゴゲーム」を行います。

誰かが付箋に書いた「大切なワード」を聞き、「意味が近い」と感じたらビンゴ!近くに貼り付けます。字面は異なるけれど、意味が近いと思えばビンゴ。字面は似ていても意味が異なればビンゴしない。こうすることで私たちは言葉を超え、意味で繋がることができます。

ビンゴゲームの結果、「信頼関係」「ロングスパン」「人のつながり」などの価値が手厚く気にかけられていること、そして多様な価値が存在していることが可視化されました。

「ビンゴしなかった付箋…つまり、これを大切にしたいと考える人が1人しかいなかった価値こそ尊重しよう」という、ファシリテーターからの投げかけに対して、みんなの深い頷きがありました。なぜなら、多くの人が同じことばかりを見ていれば、それ以外のことは見落とされてしまうから。裏を返せば、視点の多様さこそが、コミュニティとしての視野の広さであり、可能性の大きさです。

共有の価値をカタチにするためにつながる「マグネットテーブル」

対話のあとは、世界にアイデアを生み落とす時間。今回はマグネットテーブルという手法が採用されました。

「ここにどんなサービス・店・場所があったら嬉しいか」を書き出し、それを掲げて歩きまわります。「一緒に動いたら楽しそう、新しいものが生まれそう」と感じた人が見つかれば、くっついてチームになります。

チームができたら、位置について、よーい、どん!15分間という限られた時間の中で、発表できる状態までアイデアを練り上げます。こうして複数のチームから、誰もが自由に集まれるコミュニティスポットや駅前全体を賑やかにする都市計画などの案が発表されました。

「高齢者や子育て世代、話を聞いてほしい人がつながれる場所」「歩いて周ることが出来る、市外から来た方が楽しめる街」……これらは脈絡なく出てきたアイデアではなく、参加したみなさんが先ほどのビンゴゲームで見える化した価値を実現するために生まれたものです。

「ブランディング」と聞くと、つい私たちは「広告代理店が主役となって、画一化された方法を用いて行うマーケティングに基づき、急成長を図るビジネスプラン」や、「これまでの延長線上での実現可能性の話」をしてしまいがちだったのではないでしょうか。

しかし今回は、「その土地で暮らし・働く人が主役となって、そこに脈々と続いてきた文化・歴史に基づき、これからの地域の魅力を紡ぐ」ことを試みました。他の誰でもない、私たちが共に考え、共につくり出したもの。それは、皆が将来に渡って、つい共に育みたくなってしまうような愛着と納得感のあるものになるのではないでしょうか。

高崎市沿線ブランディングでは、高崎駅・深谷駅・熊谷駅から広がる街を楽しむヒントを提案するZINEの製作も進んでいます。対話でローカルの土を耕しながら、そこから生まれた実りや種が編集によって風にのり、しかるべき誰かの手に届いていくということ。私たち自身が、自分たちの仕事や暮らしの価値を高めるためにできることは、たくさんあるはずです。

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